ミステリアスビューティ

ボクがアベベのマスターをやっていたとき、いろんなお客が店にやってきた。
そのなかで、いつもカウンターに座ってコーヒーを静かに飲むとびきりの美人がいた。
知的な美人だけど、憂いを感じさせる面影はどこかのお嬢さんという感じでもない。
気軽に話しかけられる雰囲気ではないけれど、かといって他人を寄せ付けないというような冷たさもなかった。
ミステリアスな雰囲気のその美人は、ボクはもちろん、店に来る男どもの気になる存在だった。
どこの誰だろう? 
口にはしなくても、その美人が店にいるときは、ほかのお客がそれぞれ話しながらも彼女に意識を集中している様子がボクにも伝わってくる。
ある日のこと、その美人がやってきていつものようにカウンターに座った。
店にはボクとその女性しかいない。おーし、チャンスだ!
ボクは内心ドキドキものだったけど思い切って尋ねてみた。声も心なしか上ずっていたかもしれない。
「お近くにお住まいですか?」 ・・・こんなときは小倉弁が出ないもんだね。
すると、その女性はにっこり笑って、「前で踊っているんです。私」と言った。
「そうですか・・・えっ? ええーっ? えええーっ?」
アベベの前にあるのは、A級小倉劇場というストリップ劇場だ。
とすると、この美人はそこの踊り子さんということか。
きっと、このひと、いろんな意味で男どもを虜にするんだろうなぁ・・・
これまたとびっきりの優しい笑顔にボクはますますファンになった。
だけど、しばらくは「アベベのミステリアスビューティ」のまま、皆には内緒にしとこう。
それから、皆が「どこの誰だろう?」とあれこれ話すのを、ボクは随分長い間楽しませてもらった。

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